木谷綜合学園副学長 木谷泰子公式ホームページ 木谷泰子プロフィール 木谷泰子連絡先
木谷泰子ホームページ 認知症介護について いじめ問題について 新聞記事など 木谷泰子の居場所 木谷泰子の著書など

 高齢化と共に増えている、認知症と介護の問題。
 私もその当事者の一人です。


認知症の母と暮らす
 「ねえ、泰子。わし、お父っちゃんの顔忘れてしもうたから、何か写真でも部屋に貼ってもらえんけ?」
  ある日のこと、部屋に入ると母が遠慮がちに私に言った。
  心構えはしてきたつもりだったが、やはりショックだった。
  母は毎日見ている私の顔でさえ、時折私の叔母と間違える。
  しかし、しばらくすると元に戻り、またしばらくするとひどく記憶が混乱する。
  認知症とは不思議な病気だ。
  母には何を言っても忘れてしまうから、叱っても説教しても効果がない。
  例えば、母は私が出張のために鞄に荷物を詰め込んでも、その中身を元の場所に戻す。
 私はそれを咎めるが、そんなことは忘れて何度も同じことを繰り返す。
  私の父は、いわゆる“寝たきり”で、介護度5に認定されていたが、認知症にはなっていなかった。
 私の目には、動けなくとも記憶がシッカリしていた父の方が幸せに見えた。
  そんなことを思ってしまうほど、母の症状は深刻だ。 


人は心の持ち方次第
 母と言い争ったあとは、とても気持ちが沈む。
  病気のせいだと解かっているつもりだが、それでも私は母の言葉に傷つく。
  そんなある時、私はふと主人から聞いた話を思い出した。
  「徳川家康は織田信長に、妻と長男を殺せと命令された。その命に背けば攻め滅ぼされてしまうから、家康は家を守るために妻と長男を死なせたんだ。今の社会に、そこまでの苦しみはなかなかないだろう?我々は贅沢に生きてるんだよ。求めてはキリがない。」
  主人は歴史書が好きで、そこから得た考え方などを私に教えてくれる。
  時に私は自分の目の前のことだけにとらわれ、一歩引いて見てみれば小さな障害であっても、まるで世界の終わりのように感じている。
  悩んだ時は、心が向いている角度を少し変えればいい。


著書「喪われていく『母』の物語」
タイトル:喪われていく「母」の物語
価  格:¥1,680 (税込)
発  行:(株)文芸社
初  版:2009年10月15日
初  刷:2009年10月15日

−帯書き−
娘の夫の顔を忘れるほどに認知症が進んだ母。
混乱した母と言い争うたびに心を襲う猛烈な罪の意識と自己嫌悪。
しかし、そんな母の来し方をたどれば、そこには多くの知恵と子供たちへの深い愛情があった。
すべてが喪われてしまう前に、たくさんの思い出と記憶を留めたくて、これまでの日々を綴った。
──願わくはその記録が、人々が日々を生きるためのヒントにならんことを祈って。


−推薦文−
認知症患者の介護話だと聞くと、たいへん重苦しいものに感じる。
しかし本書は、著者の母親が元気に働いていた当時の話などが本書全体の半分くらいを占め、私は本書を読むうちに、貧しくも活気があった時代を感じて前向きな気分にさせられた。

「私はいい時代に生まれた。電化製品のない時代を知っていて、十代の頃から電気洗濯機やら冷蔵庫やらテレビやらが家に入ってきて、生活がどんどん便利になっていった。あの新鮮な感激を味わった世代だからね」
「私のほうが、あんたよりいい時代に生まれたと思うよ。薪を割ってカマドにくべて、ご飯を炊いていた時代だもの。便利になっていく驚きとありがたさが身に沁みた。だから、あんたよりもずっと幸せ者だね」
著者と、著者の母親との会話である。

ここに、「ありがたいこっちゃ」が口癖だという著者の母親と、著者の性格が見て取れる。
生活や仕事の苦労を愚痴らずに、前向きにとらえられるタイプのようだ。働き者が多いと言われる、富山女性の典型的タイプなのかもしれない。

そんな著者が傷つき涙するのだから、自分の母親が認知症になりその側にいることが想像を絶する苦難であることがうかがい知れる。
この本を読んだことで、私は漠然としていた“認知症の親との生活”を少しは具体的にイメージできたように思う。

悲しくも愛しい存在。
認知症の親とは、そういう存在であろう。
その悲しくも愛しい存在は、時に親子心中さえも決行させるほど、子を苦しめる。

人々が欲した“身体の長寿化”が、“脳の長寿化”に先行したことが、このような苦悩を多発させたのであろう。
では、脳の長寿化が追いつけば、死ぬまで幸福でいられるのであろうか。
そんなことはない。
幸福であるかどうかは、いわゆる“心の持ち様”次第だ。

この本には、著者の悲しい現実と共に、幸福に生きるためのヒントが詰まっている。


フリーライター 米村安優



−読者の感想−
射水市 高木良考様から頂いたご感想

Copyright (C) Since2009 YASUKO KIDANI.